脱走

とある老人保健施設でのできごと。
 
夜勤も終盤戦、朝方6時半頃、オムツ交換を終えた時でした。
 
後片付けのために汚物処理室(使用済みのオムツやポータルトイレの排泄物を流したりする部屋)へ入るなり違和感「?」
 
「???!!!」
 
小窓が半開きじゃありませんか!
 
「◯◯さん、念のため痴呆棟を見てもらっていいですか!」
 
これは介護保険がスタートする2000年より前の話で、まだ『認知症』という名称がなく『痴呆症』と言っていました。
 
勤務先が違うので現在は分かりませんが、当時その痴呆棟は、別棟というよりも、認知症の方だけが過ごす部屋という感じでした。
 
というのも、そこは50畳くらいのロビー内に数室あり、10名くらいが入居され、入口はオートロックで廊下からは大きなガラス張りだったから。
 
  
今だと、「これって拘束だよね」安全管理上といっても、24時間施錠ですから。
話を戻します。
 
 
「◯◯さんがいない!」
 
「やっぱり ٩( ᐛ )و 」
 
 夜勤の相棒と半開きの小窓を眺めて
 
「うそー⁈ すごくない??」
 
その小窓、高さ150センチ、窓の幅40センチくらい、開き窓なので全開にはできないんです。
 
脱走したSさん(もちろん、本人は脱走してるつもりはない)は、70代後半の女性、細身。
 
現場に足場は無く、窓の外はコンクリートである。
 
「どうやって?」
「全集中したらいけるのかね」
 
そんな事を言いながら早出のスタッフに応援を頼み、施設中を探すも見つからない。
 
Sさんは元々農家をされていたので足腰は丈夫。
 
おそらく施設外に出られたと思われる。
 
施設の前は道路なので事故の心配をしていると、日勤のスタッフがニコニコしながら、「途中で会ったので乗せてきましたー」と無事に帰還。
 
「ありがとう〜(泣)」
 
2〜3キロ先を歩かれてた(自宅方面)らしく、タイミングよく通ってくれたスタッフに感謝でした。
 
幸いケガもなく、大事には至りませんでした。
ところで、なぜSさんが、まず部屋から出られたのか?
 
居なくなった時はオートロックはきちんとかかっていて、出るタイミングは無かったはず。
 
Sさん、重度の認知症はあっても、とても頭のよい方でした。
 
普段から他の家族が面会から帰る時に、一緒に混ざって出ようとされた事が数回あったこと。
 
たまにオートロックの様子を見ていたこと。
 
そのため、オートロックをする際はみんな気をつけていました。
 
オートロックを開けて出られた可能性があります。
 
でも、後のこと考えてオートロックを閉めたの?
 
あの小窓からどうやって?
 
もちろん、オートロックをする間に一瞬のスキをついて閉める前に外に出られた可能性は否定できないので、その後職員間で更に徹底しました。
 
更に更に、もう一つの可能性として、実は認知症では無かったとか (´∀`*)
 
今となっては真実は闇の中。
 
奥が深いですよ。
 
スタッフでさえ無理であろう、あの小窓から脱出する姿を見たかった。
 
〜おわり〜

